ファッション界のカー ディーラー、アルチュール・カー

運転をアートへ昇華させるクルマのコレクター兼ディーラーと対話する

  • インタビュー: Evie Bear
  • 画像提供: L'Art de l'Automobile/Joshua Woods
  • モデル: Giedre Dukauskaite

SSENSEは、希少な高級ビンテージ車のディーラーでありながらファッション界でも活躍するアルチュール・カー(Arthur Kar)に約一年前、インタビューをしている。その中で、当時Karは、自身のブランドを立ち上げる構想を語っていた。今回、SSENSEがお贈りするのは、それが実現となったKAR / L’Art de l’AutomobileのSSENSE限定版の Tシャツを含むメンズウェアとウィメンズウェアのセレクション。それから忘れてはならないのが、もうひとつの商品。写真を見ての通り、美しく整備された 1978年製 Ferrari 308 GTBだ。インタビューと併せて、コレクションの方も是非お楽しみあれ。

パリの中心地、何の変哲もない区域にある看板もないショールーム。そこには、およそ50台のレアなクラシック カーが静かに佇んでいる。まるで、コンクリートでできた仄暗い理想郷のようだ。もしあなたがたまたまその近辺へ行くことがあったら、猛スピードで地下から飛び出してくる夢のような車の運転席に、ベイルート生まれのハンサムな33歳の青年を見かけるチャンスも決して少なくない。

アルチュール・カー(Arthur Kar)は、著名なラッパー、デザイナー、アーティストとの付き合いが頻繁に目撃されているから、そうした仲間のひとりだろうと推測されても無理はない。しかし実は、車のコレクターであり、L’Art de l’Automobileを経営するディーラーだと知った途端、その素性は謎のベールに包まれる。アルチュールは、あなたが今まで会ったどの中古車セールスマンとも全く違う。

ファッション ウィーク中パリに滞在していた私と私のボーイフレンドは、マレでアルチュールとランチを共にした。彼のガールフレンドであるモデルのギエドレ・ドゥカウスケイト(Giedre Dukauskaite)も一緒だ。アルチュールたちは、そのレストランのイワシが最高だと熱弁をふるいながら、私たちの食事まで注文してくれた。彼が食に対して見せる情熱は、車への情熱、そして実のところ、あらゆるものへの情熱を映している。彼は、自分が所有するものすべてのありがたみを、正しく理解している男だ。それらを手に入れるために途方もない努力をしてきたから。洗車し、ポルシェのエンジンを整備していた16歳の慎ましいスタートから、この年末に立ち上げるTシャツとアパレルのブランドに至るまで、アルチュールが歩んだ道のりについて私たちは考えを巡らせる。ガールフレンドのギエドレがあちこちで口を挟み、愛する女性ならではの貴重な洞察を提供してくれる。「ひとつ言えることは、アルチュールは、何に関してもとにかく珍しいものじゃなきゃダメなの。珍しい靴、珍しい車、珍しい服、珍しい色、珍しい家具」。アルチュールが割り込む。「あと珍しい人!」

Evie Bear

Arthur Kar

エヴィ・ベア:どうやったら、16歳の少年がポルシェで働けたんですか?

アルチュール・カー: あの仕事にありつけたのは、粘りの賜物だよ。パリにある修理工場へ1ヶ月に6回通って、オーナーに「ここで働きたい。働きたい。働きたい」って、仕事をもらえるまで言い続けたんだ。ポルシェでは4年間働いた。20歳になったとき、自分で車を所有したいと気づいて辞めたんだ。やりたいことをやろうと思ったら、修理工として働き続けるのは無理だった。だから仕事を辞めて、少しずつ車を売買していこうと決めた。

内なる欲求にしたがって行動して、それが功を奏したわけですか。

うーん、16歳で洗車してるのも楽しかったよ。今も、僕はあの時とちっとも変わってない。タイヤを替えたり、オイル交換したり、洗車をしてる人たちでも、世界でいちばん美しい車を売ったり乗り回している人たちでも、僕は同じだけの敬意を払う。みんな同じ情熱を持って、本質的には同じ仕事をしている、同じ種類の人間だから。

タイヤを替えたり、オイル交換したり、洗車をしてる人たちでも、世界でいちばん美しい車を売ったり乗り回している人たちでも、僕は同じだけの敬意を払う

最初に買った車は?

最初の車は小型の「スマート」だった。でも、普通のモデルより、もっと馬力があってスタイリッシュな限定モデルの「ブラバス」を見つけたんだ。ブラバスは、見た目はスポーティ仕様なんだけど、やっぱり小さくて変わったスマートだったよ。

最初に買った高級車は?

ポルシェのターボ。黒の「996 ターボ」。ポルシェは憧れの車のひとつだったけど、まさか、自分が所有する最初の大型車がポルシェだなんて、想像もしてなかったよ。クラシックで格好いい車だったらなんでもよかったんだ。確かだったのは、僕の目標は世界でいちばん美しい車を扱うこと。だから、あのとき、ポルシェのかわりに今所有しているゴルフの「GTI」を買うチャンスがあったら、それを買ってただろうね。ポルシェは2ヶ月間持ってた後、売って他の車を買った。

すべてはそうやって始まったのですね。

そう、それが始まりだったね。ポルシェを辞めた後、まだ自分のビジネスじゃなくて、ある人物の下で働いていたんだ。僕自身のことや僕のモチベーションを理解してもらおうと思ったから、車以外のことでもオープンになろうとしたんだけど、ボスは僕が望んだように理解してくれなかった。だから、自分でビジネスをやるしかないな、と思ったんだ。車は僕の身に染みついている。仕事じゃなくて、僕の人生なんだ。でも、車にはいろんな側面があって、アートやカルチャーやファッションが大きな要素を占めてるんだ。

L’Art De l’Automobileというあなたの会社名は、そこから生まれたんですか? 車の世界だけでなく、それにまつわる内外の世界を認識することが由来なんでしょうか?

その通り。社名には3つの意味が含まれてるんだ。僕の名前アルチュール(Arthur)と車(automobiles)とアート(Art)。直訳すると「車のアート」。僕にとって車はアートなんだ。ほかの人がアートを鑑賞したり、コラボレーションをするように、車でも同じことができるはずだ。

画像のアイテム:1978 Ferrari 308 GTB

友達のブランドをサポートしたり、オリジナリティを鼓舞するのが、あなたのやり方のようですね。ファッションは、そのどこに収まるんでしょうか?

ファッション ウィークであろうとなかろうと、僕は、友達の店やファッション スタジオに行って、自分の好きなコレクションのベストな作品を探すようにしてるんだ。そういうブランドこそ、僕の素養の源だからね。ファッションを評価したり理解していく中で、たくさんのアーティスト、アートの方法論、デザイナーを発見してきたよ。ファッションという創造は、車の世界を表現として進化させたいという僕自身の欲求を刺激するんだ。ファッションのように、車文化もクリエイティブになり得るんだよ。

あなたにとって、車は自己表現の手段だということですか?

その通り。新しく洋服のブランドを作ったのも、同じ理由からなんだ。別に違う人間になるつもりも、ファッション デザイナーになるつもりもない。ただ、例えば色とかロゴ マークとか、自分が車に関して好きなものすべてを合体させてみたい。それが、車とファッションのふたつを融合する、僕なりのやり方だから。カルチャーと車って結び付けることができるし、結び付けるべきだ、と僕は固く信じているから洋服のブランドを立ち上げる必要があるんだ。

ジャンヌレが車のシートを作ってたら良かったのにね。安全に関してあれこれ細かい法律が施行される前に誰かがそういうことを考えてくれてたら、とつくづく思うよ

あなたのスタイルの信念はなんですか?

シンプルで楽しい、だね。人生に対する信念も同じ。僕は車が大好きだけど、車のことだけを考えて全部の時間を費やしたりはしない。そうじゃないと、マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)も、ノートリアス・ B.I.G.(Notorious B.I.G.)もナズ(Nas)も知らないままだ! だから、着るものを考える時間もそれほど長くはないけど、面白半分とか無意識に、自分の気分とその日の車を合わせることはあるよ。Vansの古いホワイト スニーカーは白いクラシック カーとすごく似合って、全部がヴィンテージな感じになるんだ。新しいタイヤを付けたときなら、絶対、おろしたてのYeezyのスニーカーだな。ところで、僕はレストランのロゴが入ったTシャツが好きでね。おいしい料理を出すレストランが、ロゴをプリントしてオリジナルのTシャツを作ってる場合、大概、そのTシャツもセンスがいいんだ。ガールフレンドや友達と食事に行って、料理に満足したら、即Tシャツを買って帰るんだ。

あなたが世界を知覚する上で、デザインはとても大きな役割を果たしていますね。私もクラシックカーや珍しい車に囲まれて育ったので、そういう熱意がどこから来るのかは理解ができますが、今回の撮影のために、あなたはピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret)の椅子を持ってきました。あの椅子はどう関連するのですか?

僕は家具に夢中なんだ。特に、ル・コルビジェ(Le Corbusier)とかジャンヌレとかジャン・プルーヴェ(Jean Prouve)みたいな、フランスのデザイナーね。車を作るときのデザインのプロセスを考えてみると、多分、おそらく僕の歳かもっと若いアーティストが関わってるよね。毎日、高級車やスポーツカーのシートを作っている。でも僕の頭では、ピエール・ジャンヌレが美しい車のシートを作っているところが想像できるんだ。フェラーリ「308」の隣にジャンヌレの椅子を置いて、ジャンヌレのシートに座って運転してるんだ、なんて遊んだり。ジャンヌレが車のシートを作ってたら良かったのにね。安全に関してあれこれ細かい法律が施行される前に誰かがそういうことを考えてくれてたら、とつくづく思うよ。

ギエドレ・ドゥカウスケイト:その他に彼が情熱を傾けるのは、車の運転よ。一度でも彼と一緒に車に乗ったことのある人なら、分かると思うわ。

そうだね! 僕にとってベストな時間は、車を運転してるときだ。どんな車でもいい。たとえ外見はヒドくても、楽しいことに変わりはない。それに、スピードを出すのが大好きなんだ。昔は趣味でレースをしてたこともあった。警察には嫌われてるけどね。

画像のアイテム:1978 Ferrari 308 GTB

  • インタビュー: Evie Bear
  • 画像提供: L'Art de l'Automobile/Joshua Woods
  • モデル: Giedre Dukauskaite