体験レポート:
Gucci ズゥミ サンダル、
オフィディア ベルト バッグ、
スネーク レザー GG バイザー

カリブのおばちゃんルックに身を包み、ディードリー・ダイアーは失われた夏に思いを馳せる

  • 文: Deidre Dyer
  • アートワーク: Megan Tatem

Gucciは、熱く燃え、眩く輝くために生まれてきた女たちのラグジュアリー ブランドだ。彼女たちはしょっちゅう、苛立ちや不満を表明する。気が短くて、レジで清算するときでなく、入店したときに注目を要求する。年配になると、どんな店にいても、サービスがなってないと不服を言わずにいられない。米と豆の上にかけられたオックステールのソースの量が少なすぎる、と舌打ちする。

そんな高飛車なエネルギーに敬意を表して、私はやりすぎなコーディネートがポイントのアクセサリー セットを考案した。名付けて、魅惑の「Gucci おばちゃん入門セット」。この入門セットは、「贅沢」と「豪華」と「けばけばしさ」に「ちょっとそれ、本物?」の隠し味を添えて、世間か、とりあえずは半径10メートル以内に知らしめる永遠の小道具だ。選んだのは、ブラック スネークスキン GG バイザーブラック オフィディア ベルト バッグブラック ズゥミ ミュール
の燦然と輝く3点セット。小包が配達されるいなや、私は早速ひとつずつ身につけてみて、しばし鏡に映し、ひとりでちょっと笑ってしまった。それぞれを写真に撮って友人のレイ(Ray)に送ると、「不滅アイテム!」とコメントしてきた。わたしはすぐ返信した。「ひとつひとつは地味なんだけど、全部合わせると悪趣味なんだよね」

ロゴ使いが大胆なブランド品が往々にして偽造品であることは、周知のとおりだ。ロサンゼルスなら、125thストリートとフルトン アベニュー辺りのフリーマーケットで手に入る。そして現在のGucciは、1980年に頂点を極めたDapper Danの偽物並みに、ロゴマニアの虚栄を使いこなす名手だ。2015年からこのラグジュアリー ブランドを率いるアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)は、Gucciのロゴ愛を不条理なレベルまで押し進めた。もちろん、最高の形で、という意味だ。ブランディングは、過激で極端な表現でこそ真の力を発揮し、抽象の域まで拡大することで最強になると、ミケーレは理解している。なんせ、「GUCCY」と綴ったコレクションを発表したほどだ。

初めてオフィディア ベルト バッグをつけて出かけた先は、ブルックリンのベッドフォード スタイベサント地区にあるタコスの店だった。親友のジャズミン(Jazmine)とソーシャル ディスタンスを保ちながらフローズン カクテルを楽しんだ日だ。私はすぐさま、最高に特別な「おばちゃんラグジュアリー」に挑戦していることをジャズミンに教え、バッグを指さした。彼女は笑った。「Gucciとおばちゃんじゃ、くどすぎるよ」

私にとって、おばちゃん入門セットはドラァグと同じ、パフォーマンスだった。魚座の性格にふさわしく、相反する二元的な力が私のスタイルの特徴だ。カーニバルの頭飾りやビーズや光モノで文字通り孔雀みたいになることもあるし、体が泳ぐくらいオーバーサイズのスウェット パンツとゆったりしたSupremeのボタン アップ シャツでいることも珍しくない。でも、こんなふうに人目を惹こうとするのは初めてだったから、なんだかおろしたてのミュールみたいに、おぼつかない。

おばちゃんスタイルが、洗練されてなくて、けばけばしくなりがちなのは、広く知られている。頑丈なヒールと分別くさいスカート丈で常に臨戦態勢を整えた母親スタイルに、近いけど、真逆でもある。おばちゃんたちはシックにもなれるし、ちょっと場違いなところもある。「ビーチサンダルでお越しください」という招待に、エナメルのミュールで現れる。近所まで食料品を買いに行くだけなのに、真っ赤な口紅を引く。ちょっと大きすぎる声で笑うし、ゴシップに目がない。私のマリリン(Marilyn)おばさんも、そんなひとりだ。

画像のアイテム:クラッチ(Gucci) 冒頭の画像のアイテム:帽子(Gucci)

ちょっと背景を説明しておこう。私の両親は教会に通う敬虔なクリスチャンだ。毎年9月第一月曜日にはレイバーデイ カーニバルが開催されるが、それに参加するウェスト インディアン レイバーデイ パレードの思い出を、ぽつぽつ話すような人たちだ。イースタン パークウェイを練り歩く竹馬に乗ったモコジャンビーたちや羽飾りをつけた仮装の人々を、親戚の家のバルコニーから見下ろして見物したという。私は先祖の血が薄まった一世のアメリカ人だから、カーニバルやトリニダード・トバゴ発祥の音楽「ソカ」は年長者の昔話でしかなかったし、ソカのミュージシャンが一堂に会する故郷のソカ テントは、パリっとしたシャツとジャケットに身を包んだ父やおじたちが話すのを、又聞きするだけだった。私がレイバーデイの熱狂にどっぷり浸かってみたくてうずうずしたのは、言うまでもない。

毎年夏を重ねる度に、ミッキー(Mickey)とサシェル(Sashel)という年上の従姉たちの手ほどきを受けて、私はセクシーな「トリニ娘」になる修業をした。ふたりはティーンになる前に島から米国に移民してきた。強いアクセント、抜きすぎた眉、「向こう」の友達と話すための国際電話カードを持っていたふたりは、こっそり家を抜け出して、本物のラフ ライダーズが押し掛けるという噂のBBQへ忍び込む手引きをしてくれた。そう、90年代後期に名を馳せたあのDMXの、バイク クルーだ。レイバーデイ パレードが近づくと、盗み出して子供部屋のベッドの下に隠したボトルから、生ぬるいE&Jやバカルディをラッパ飲みすることも教えてくれた。いろんなことを企んだり、親の目を盗んだりしたけれど、大人が集まるBBQで最高に楽しかったのは、サシェルの家で、彼女の母のマリリンおばさんが采配するパーティーだった。

マリリンおばさんは、BBQやカレー パーティーをはじめ、裏庭で開かれるあらゆる催しを取り仕切る女ボスだった。ブルックリンで暮らすトリニダード トバゴ人コミュニティのお騒がせ人物として、その名を馳せていたが、血縁の間柄ではないので、どう見ても私の母の姉妹たちとは正反対だった。10代の私の火遊びは、たいてい、マリリンおばさんの家に行くという名目で実行に移された。おばさんの家にはプールがあった。おばさんは冷蔵庫の上に煙草を隠していたし、兵隊の一団に食べさせても夜中の2時頃までお腹が空きそうもない、とてつもない量のローストした肉やカレーやひよこ豆を常備していた。お洒落で、母が着ているところなんか想像もできないような流行の服を着ていた。滑らかに撫でつけた漆黒の髪は、先がくるんとカールしていた。どんなときも丁寧にペディキュアした足にミュールを履き、アンクレットをつけていた。サンダルの先から飛び出しそうなくらい爪を長く伸ばした、リアーナ(Rihanna)のトレードマークのペディキュアを彷彿とさせる足許だった。

トリニ風BBQを成功させるには、広い裏庭、山盛りの食べ物、音楽、バイブ等々、いろんなものが必要で、一晩中ステージを演出するようなものだ。ホスト役のいでたちには、何かコーディネートされた要素がなくてはならない。戦略としては、一体感を出した上で、過剰に小物を出動させる。例えば、家の電話と携帯の2台使い、夜のサングラス、シルクスカーフの上にかぶる帽子、ポケットベル。男たちは、これみよがしなブルー トゥースのヘッドセットが最低限の必需品だ。

ホストは一日がかりで、料理に精を出す。準備万端整ったらすぐ、ゲストが到着する前に大急ぎで2度目のシャワーを浴びる。でも最初の3時間は、片手で数えられるほどの人数しかやって来ないから、急いでも無駄に終わる。やがて、砂ぼこりを上げて、日産マキシマの改造車やトヨタ クレシーダが、シャワーを浴びたての体にパウダーをはたいた客たちを運んでくる。女たちは、蚊を引き寄せる元になるBath & Body Worksのフルーティなローションをたっぷりつけ、男たちは、鎧でもあるかのようにDiorのFahrenheitやPolo Sportのコロンをまとっている。

十代の頃、こうした夜が私の夏のクライマックスだった。こんな夜に、私はパーティーでの振舞い方を覚えた。それは友達と盛り上がるのとはまったく違っていた。寝室の鏡の前で練習したダンスのムーブメントや腰の動かし方を、屋外の、人々の前で実践した。そのうち自信がつくと、セクシーに見せる技を身につけた。お気に入りの飲み物は、ダーク ラム&コーク。腰を旋回させるワインのムーブメントは、激しくてもスローでも、お手のものだ。

画像のアイテム:サンダル(Gucci)

大人になるにつれ、マリリンおばさんと顔を合わせることはだんだん少なくなった。もちろん、家族の集まりや結婚式、葬儀など、必ず親族全員が集まる行事には、マリリンおばさんも姿を見せた。皺ひとつないドレス姿で、イヤリングをゆらし、何年経っても相変わらず信じられないほど黒く艶のある髪をしていた。瞳には、ドラマチックで、陽気で、悪戯っぽい輝きがあった。その晩を丸ごと吹き飛ばしてしまえる秘密を、お尻のポケットに隠しているみたいに。

毎夏、一度は必ずマリリンおばさんに会う。それがジュヴェだ。ペイントとパウダーと仮装の祝祭は、レイバーデイ パレードに先立って、夜明け前に始まる。朝6時頃、ウィッグとサングラスで身元と髪と尊厳を保護して、エンパイア ブルバードを冷やかしながら歩いていると、たいていお仲間を引き連れたおばさんに鉢合わせする。酔っぱらった私は「ハーイ! おばちゃん!」と怒鳴る。おばさんは状況をすばやく判断して対応するのが、実にうまい。「あら元気、ダーリン? なんか飲まない? お酒買いましょ」と、いちばん近くにいる自家製ドリンク売りを呼び止める。世の中には、好物を手作りしてくれるおばさんも、教会に引っ張っていくおばさんも、リンカーン センターで初めてのオペラを見せてくれるおばさんもいれば、こうして夜明けに姪を酔っぱらわせるおばさんもいるのだ。

Deidre 着用アイテム:帽子(Gucci)クラッチ(Gucci)サンダル(Gucci)

今年の夏はおかしい、と言うくらいでは、今の生活の大きな不安はとても表現できない。気ままに昼間からお酒を飲み、旅心を満足させる夏の日々は、最大限の用心といろんな意味でのサバイバルの季節になってしまった。笑い声はマスクに隠れ、喜びや楽しみは儚く消え去る。

私自身のスタイルも変化した。週に2、3回はバッグを変えることで有名だった私は、Pradaのブラック レザーのハンドバッグ、Maryam Nassir Zadehのシースルーのトート、Telfarのブラックのショッピング バッグを使い回していた。やがて実用性と機能性を優先することが良識になると、私もすぐに、贅沢なローテーションをStüssyのブラックのキャンバス地のクロスボディ バッグひとつに縮小した。中味は、予備のマスク、チューブ入りの手指消毒ジェル、ラテックスの手袋、消毒用ワイプのパック、レモンの香りのリップ クリーム、鍵、財布。

ケバくても意外なほど機能的なおばちゃん入門セットは、私にぴったりだった。持ち物をさらに絞り、消毒ジェルとリップ クリーム、銀行カード、身分証明書、鍵2つだけを、オフィディア ベルト バッグに入れる。スネーク レザー GG バイザーが日差しから顔を守り、ズゥミ サンダルは、このあまりにも退屈な夏を生きる私の気分を、少しだけ上げてくれる。ニューヨーク シティが再開に向けて一歩を踏み出し、こうして防御と消毒のアイテムを減らせるだけでも贅沢なのだ。

レイバーデイ カーニバルもジュヴェの夜明けの祭りも開かれそうにないし、今年の夏はマリリンおばさんに出会えるか、わからない。最後に聞いたところでは、おばさんはトリニダードへ戻り、合衆国の国境が閉鎖されて身動き取れずにいるという話だった。隔離の詳細が謎に包まれているのは、いかにもマリリンおばさんらしい。噂は本当だったのか? 嘘だったのか? どっちにしても、同じことだ。

Deidre Dyer はニューヨークを拠点とするライター、編集者、ブランド コンサルタント

  • 文: Deidre Dyer
  • アートワーク: Megan Tatem
  • 翻訳: Atsuko Saisho
  • Date: July 29, 2020