体験レポート:Off-Whiteウェストポーチ

ジュドニック・メイヤードがヴァージル・アブローとウェストポーチ、そして流行に先駆けることの意味を考察する

    2013年に遡る。私は、当初は軽い思いつきに過ぎなかったが、結果として自分のファッション スタイルに永遠に影響を与えることになる、ある決心をした。当時も今も、私にとっては宿敵のファッション アイテムであるハンドバックと決別し、ウェストポーチを身につけ始めたのだ。ポケットを活用するスッキリとしたスタイルか、ブラックホールのように何でも吸い込むハンドバックに、洗面用具、あらゆるレシート類、さらには洗濯6回分くらいの着替えまで入れて持ち歩くか。ちなみに、そこには間違いなく汚れたTシャツも突っ込まれているはずだ(笑)。この二択の答えを出してくれたのは、他ならぬ私の「お尻」であり、私はそこに鎮座する、ウェストポーチという満足のいく妥協点を見つけたのだ。

    この腰につけるコンパクトなバッグは、私のモノを溜め込む癖を矯正してくれた。この中には、実際に私が必要とするすべての持ち物を入れておくことができる。トイレでしゃがんで危ういバランスで電話を触っているときに、背筋が凍りつくようなあの恐怖? もうそんな思いはしなくていい。私はドレスにもウェストポーチを合わせ、腹筋を鍛えるウェイトをつけているようなスタイルで、自分の細いウェストが強調されるのを楽しんだ。あるいはジーンズにベルトとしてつけたり、クラブにこっそりマリファナを持ち込みたいときは、ただセーターの下に身につけたり。誰かにコートを盗まれるのではないかと心配する必要はなくなったし、下手をすれば完全に酔いつぶれてせっかくの夜が台無しになることを心配しなくてもよくなった。ナイトライフからプロダクションそしてツアーまでカバーする私の仕事においては、非常に役に立ち、まるで私のキャリアの成功が、この新しいユニフォームに直結しているかのようだった。

    そして現在、ウェストポーチは最新の見せびらかしたいアイテムになっている。単にこうしたファッションマニアの間だけではなく、私たちが書体やグラフィックやブランドのために上乗せ料金を払うような、今日の「人気ブランド」の間でも、もてはやされている。さらに、以前なら雑貨店やジムに行く人だけが着ていたようなカジュアルな服が、「ちょっとした街角の店」など存在しえないカラバサスやアスペンにいる、超金持ちな人たちの間で流行のスタイルとなった。ライブTシャツやデッドストックといった、熱狂的なファンのためのコレクター アイテムが、ラグジュアリー デザインに匹敵する、完全なステータス シンボルへと姿を変えたのだ。何かシンプルなものに高い値段がついているとき、それが暗に意味するのは、素材かデザインの面などなんらかの形で、有用性が拡張されたか改善されたということだ。押し売りやペテンにかけようとする場合はなおさら、ビジュアルな物語が必要となる。そして「証拠の写真よろしく」というのは、ネット上での単なる使い古した反応ではなく、まさに私たちがある物を別の物に見せ掛けようとする場合の本質を突いている。その点、黒人ほど何かにつけて注目される人たちは他にいないだろう。ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のOff-White は、その他の多々あるブランドを抑え、まさに「自慢できるブランド」へと成り上がった。とはいえ、正直なところ、私が彼を高く評価するのは「詐欺師」としての才能でもある。

    画像のアイテム:ウェストポーチ(Off-White) 冒頭の画像のアイテム:ウェストポーチ(Off-White)

    アブローがLouis Vuitton初の黒人クリエイティブ・ディレクターに任命されたことが発表される数週間前、私はこのOff-Whiteのウェストポーチを受け取った。バッグは非常にシンプルで、黄色で「OFF-WHITE」という言葉が型押しされた、ブランドのシグネチャである三角コーンのオレンジ色をしたグログラン テープのストラップがなければ、メイシーズ で売っている 、いわゆる「スポーツ ウォレット」とほとんど区別がつかない。レザートリムをあしらった、ジッパーが付いた黒のキャンバス地のコンパートメントは、手触りがよく、長持ちしそうだ。

    ウェストポーチ自体には特にラグジュアリー感がなかった一方で、保管用の、かわいいロビンズエッグ ブルーの袋を開けたときは、かなりテンションが上がった。親友に写真を撮って送ると、「良かった。私たちの代表者としてヴァージルを受け入れたことで、あなたも彼の努力の成果から利益を受けられるようになったのね」と返事が来た。私は、フリーランス ライターの仕事のおかげで760ドルもする大層な代物を手に入れ、さらにそれを身につけることでお金をもらえるということを考えて、声に出して笑ってしまった。友だちが私をからかうのは、私がアブロー氏に対して、彼は「最初」の黒人かもしれないが、同時に「最後の」黒人にもなるだろうと、長年批判していたからだ。 彼が作り上げているシステムでは、彼の他には誰ひとりとして、すばやくお金を稼げる人は出てこない。なぜなら、彼がせっせと築くこの道は、彼だけのためのものだからだ。

    アメリカ中西部の子どもは、金持ちの若い黒人の男のような服装をしているし、白人から白人に近い肌の色をしたあらゆる女たちが、以前ならヒップホップのビデオに出ているビッチみたいと言われたような服を着たがるようになっている

    「自分マーケティング」が重視される時代において、ヴァージルは一流のマーケターだといえる。彼には触れるものすべてを金に変えるミダスタッチの能力がある。彼がバスケットボール パンツや高額のスウェットを提案したことで、どれほどハイファッションの格が下げられてしまったかと、困惑する批評家や、中にはそんな彼に敵意を抱く批評家もいる。だが、当の批評家たちは、私たちが、黒人が当たり前のように億万長者になれる時代に生きていることを忘れているのだ。アメリカ中西部の子どもは、金持ちの若い黒人の男のような服装をしているし、白人から白人に近い肌の色をしたあらゆる女たちが、以前ならヒップホップのビデオに出ているセクシーなビッチを彷彿とさせる服を着たがるようになっている。そして今は、目立たなければ意味がない、トレンドに乗り遅れるのがこわい、人の気を引くためにやたらと目立たなければならない、そういう時代だ。あらゆるところに蔓延る人種差別から、これよりヒドくはなりようがない状況を、私たちは身をもって学んでいる。そして黒人の男が、単なる現金の札束の象徴ではなく、日常に着るストリートウェアをラグジュアリーとして位置付け、現実のファッションの象徴的存在になっている。ヴァージルは別のチートコードを使ったのだ。彼が選んだのは、アートワールドのモデルだった。機能改善に基づいた値上げではなく、そこから想起されるイメージを豊かにすることで価格を釣り上げた。内情に通じていない者にとっては、そしておそらく内情に詳しい者にとってすら、この高値は恣意的なものに思える。

    画像のアイテム:ウェストポーチ(Off-White)

    私に関していえば、皆がこのウェストポーチについたオレンジ色のベルトを褒めてくれたが、大抵、それがOff-Whiteだと気づくのに数日はかかった。明るいオレンジ色のストラップに、でかでかと書かれた文字が隠れてしまっているからだ。アメリカ中で、6週間、このウェストポーチを身につけていたけれど、誰ひとりとしてこれを買い取ろうとした人や、熱狂的にコメントした人はいなかった。通常のウェストポーチのような正面にジッパーがついたデザインとは異なり、ポーチスタイルのようにジッパーでポーチが完全に開くデザインのため、ほぼ毎日、中の物が外に落ちた。後になって、スケプタ(Skepta)が似たようなOff-Whiteのショルダーバッグを身につけているの見たのだが、そちらの方がはるかに良いデザインなので、すっかり見入ってしまった。賭けてもいいが、スケプタは、空港のセキュリティーチェックの最中に7枚の異なるスーパーのポイントカードと4枚の地下鉄カードを床にぶちまけて、拾うはめになっていないはずだ。そして、私のウェストポーチの見た目は、すでに随分くたびれていた。たったの30日で、私はこれを身につけて、雪のニューヨークを歩き、蒸し蒸しするルイジアナの湿地を歩き、砂埃の竜巻が舞う砂漠を歩いた。それでも私が、他のよりも自分のウェストポーチを気に入っている理由は、つまるところ、それが「目立つ」からだ。

    私がウェストポーチを初めて持ち始めた頃は、声をかけられて、本気でおしゃれだと思ってやっているのか聞かれたものだ。今では、ウェストポーチは「使い勝手がいいのはわかるが、おしゃれに着こなさなきゃ」を体現するアイテムとなったと言えるだろう。ラッパーから人気インスタグラマー、ラッパーのような格好をした白人の若者まで、誰もがウェストポーチを自慢気に身につけている。私たちは皆、「ロードマン」と呼ばれるイギリスのストリートギャングのような格好、つまり、トラックスーツに、ダッドハット、そして小ぶりのスポーティーなカバンといった、引退した人たちのようなスタイルをしている。とは言え、私は常に「お年寄り向け」と言われるものには、何でも目を向ける価値があると考えてきた。お年寄りが気にするのは、快適さと思い出、このふたつだ。彼らは、個人的な喜びにつながるものでない限り、軽薄な行動を軽蔑する。すでに三十年近くこの人生の冒険を歩む身としては、使い勝手だけがモノの価値をはかるのに信頼できる方法だという彼らのアプローチに、喜んで従うつもりである。

    Judnick Mayardはロサンゼルス在住のシナリオライター兼プロデューサー

    • 文: Judnick Mayard